吉原さんは、大学院卒業の頃は、カナダで自然保護官になろうと考えていたそうですね。

行くつもりはあったけど、色々と事情があって直前で駄目になってね。向こうで修士が始まるのは九月だから、日本の就職口なんてもうないわけですよ。もうすでに嫁さんもいたし、これは困ったぞと思いながら、嫁に食わして貰っていた(笑)。まあ、これはこれで悪くない生活だったけど、やっぱり働かなくちゃいけない。友人にいい会社を紹介して貰ったんだけど、営業だって言うんで断ってしまった。若さだよねえ、給料だって良かったのに。「俺が営業なんてやれるわけがねえじゃん」って思っちゃった(笑)。
そこで、動物園を思いついた?

うん、動物園で働くかと考えて上野に行ったの。そうしたら、「ここは東京都が運営している動物園なので、東京都の公務員試験に受からないと働けません」って言うんだよ。しかも、職員の空きがないと入れないし、今はその空きもないと。ただ、将来、飼育係になりたいという実習生なら働けるって聞いて、無給なんだけど入っちゃった(笑)。
無給とは凄い(笑)。実習生としてはどんなことをされていたのですか?

一人の飼育係に十日くらいずつ実習生としてついたのかな。パンダから始まって、色々な動物の飼育をする凄い経験をさせて貰った。そうこうしているうちに、たまたま飼育係を採用する試験があることを知った。
ただし、上野や多摩の動物園は東京都の建設局の管轄で、受かったとしても東京都の職員になったということで、どこに配属されるか分からない。でも、学園紛争でバタバタしていた時期で試験の時期が遅れ、公募もしないというし、「飼育係の希望者なんて二、三人しかこないよ」とみんなが言うわけですよ。
それはラッキーでした。

いや、そんなに甘くはなかった。家畜の繁殖と生理、それに飼料と飼養を勉強すればいいと教えて貰ったんだけど、飼養学というのは知らなかったし、試験までは二ヵ月しかない。これを覚えるのは大変だぞっと思ったが、周囲は受ける人が少ないのだから大丈夫だと言うんだよ。ところが、試験当日に駅を降りたら人で一杯、会場の講堂も満員ですよ。それがみんな動物園の志望者(笑)。
でも、その難関を突破したのですね。

必死だったもん(笑)。子供は生まれるし、奥さんは働けなくなるし。畜産大辞典っていう分厚い本を、二ヵ月間で頭から全部覚えた。まあ、そこらの学生さんとは気合が違うよ(笑)。ただ、そこからがまた問題で、配属先が動物園になるか島の畜産事業の振興になるか分からないって言うんだね。今考えると非常に馬鹿なことを言ったと思うけど、「私は理学部なんで、畜産のことはまったく分かりません。動物園への配属でないのなら、採用して頂かなくて結構です」って言ってしまった。そして、結果的には動物園への配属になった。
配属先は上野ではなく多摩動物公園でした。

まあ、動物園で働けるならどちらでも良かった。大学院では鹿を研究していたんで、担当は鹿。でも、腰を痛めてしまって、大型の動物の世話ができなくなってしまった。そこで入園二年目からチンパンジーの担当になったわけ。
動物園の飼育係は人気のある職業ですが、この職業を希望される方へのアドバイスがあればお願いします。



▲チンパンジーたちを見守る吉原さん
公務員として働くには勉強をしなければいけないし、どこに配属されるか分からない。獣医さんになるには国家試験を通らなければいけない。作業員としての飼育係は動物園が募集するが、これはいつ採用があるか分からない。まず、それを分からなくてはいけない。それから、動物を好きだという気持ちだけで続けられるほど甘いものではないね。ペットを可愛いと思う気持ちと、動物園で動物を世話をすることはまったく別物なんだ。でも、好きなことなら続くはずだし、面白い仕事だよ。

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