トレーニングする時のコツはありますか?

トレーニングには基本的にマニュアルがあります。英国式やアメリカ式、ニュージーランド式などいろいろです。でも、コツをひと言でというのは難しい。たとえば、犬の飛びつきというのがあります。悪い事はわかっていても、飼い主によっては、飛びつかれないと飼っている気がしないと言う人もいます。そしたら、家族に対しては、仔犬だから飛びつきだけはいいことにしようとか、ルールを決めればいいんです。
また、おびえている仔犬がいるとするじゃないですか。その仔が勇気を出して、私に飛びついてきた。そこで叱ったら、その犬は人間を怖がるようになってしまう。だから、まず飛びつきを許しておいて、慣れてきたらやめさせるということもあります。つまり、コツといっても、家族を含めた飼い主と犬の環境を見ながら、判断していくしかありません。生き物ですからね。そこが面白いから、みなさんペットを飼うんでしょう。
先生の目指しているものは?

ひとことで言うと、犬社会の向上です。イギリスは、犬は子供と一緒だという考え方があります。だから、犬を擬人化して猫かわいがりしたり、癒しを求めるだけということはありません。子供に対して教育を施すのと同じように、犬にも教育します。子供は親からいろいろなものを与えてもらって育ちますが、犬も同じなんです。
それは、犬とともに暮らすという考え方なんですね?

犬の社会性というものは、意識的につける必要があります。なぜなら人間の子供なら、歩けるようになれば幼稚園に行って、否が応でも外圧にさらされるわけです。犬にはそれがない。部屋の中で囲ってたら、なにも知らないまま大きくなり、精神的なキャパシティが小さくなります。結果として、小さなことでもすぐに怒ったり、怖がったりするようになる。つまり、まったく社会性のない犬に育っちゃうわけです。だから、外に出していろんな経験をさせることが必要です。物音とか人とか、他の犬とか雑踏とか、いろんなことを経験させなくてはなりません。
そうすることで、家族の一員として、人間と一緒に暮らせるようになるのですね?

「人格」という言葉はちょっとおかしいんですが、一個の犬の人格を認めるというんですかね。いつまでたっても子供のような顔をした犬が一杯いる。みんな、それをかわいいというかもしれないが、彼らは飼い主がいないと何もできない犬なんです。いろんな経験をしていれば、ペットホテルでも、友人の家でも気兼ねなく預けられて、預けられた場所でもモリモリ食事をして、他の犬とも仲良くできる。そういう犬に育てておかないと。基本的に、人間の生活がきちんとあって、それに犬がついてこられるようになってはじめて、彼らが家族の一員になったと思うんです。犬に振り回されて、旅行もいけない。人間にとっても不幸だけど、犬にとってはもっと不幸ですよね。
犬に対して、やっていけないことをきちんと教えるのも大切ですか?

すごく大切です。たとえば、おしっこは電信柱ごとにさせない。犬主導の散歩をさせてはいけません。散歩は犬が人間についてくるものなんです。犬の行動を制限すると、多くの飼い主さんたちは、どうしてもかわいそうという気持ちになっちゃう。でも、本当にかわいそうなのは何かということですよね。やっていいこと悪いことを分かっている犬のほうが、どこにでも連れて行ってもらえる。お前はいい子だねって言われて生涯を終える。
犬に教えられることがたくさんあると。

私は、犬から多くのことを学びました。犬のことを考えるうちに、人間のことを考えるようになりました。彼らは、言葉によるコミュニケーション能力が低いんです。犬は基本的にボディーランゲージなんです。ということは、犬と自然に付き合っていこうと思ったら、人間もボディーランゲージで。
人間は、上っ面の言葉でコミュニケーションをとっているところがありますよね?

犬はそういうことはありません。こちらの考えていることを見抜いてくるから。こちらの思っていることを読んでくるし、こちらが緊張してるのか怒っているのか、そういうのを感じ取ってきます。犬をトレーニングするときには、神経を研ぎ澄ませて状況を察しながらやっていかなくてはいけない。
これからドッグトレーナーを目指す人たちに言いたいことは?

イギリスで出会った70歳になる先生が、「僕なんかまだまだだよ」とおっしゃっていたのを、いまだに忘れられません。それほど、ドッグトレーナーという仕事は奥が深い。それだけ難しいけど、本気で取り組める仕事でもあります。人と話をして、犬と飼い主の生活を導ける仕事でもあります。先生と呼ばれる。それで舞い上がったらだめだけど、やりがいのある仕事です。

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